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窓一面のネオンサインが、「焼肉 大山飯店」と通 りに映し出されている。韓中の折衷料理店なのだろうか。入口のサンプル・ケースを見れば、間違いなく韓国料理店である。
凝った扉を開けると、天井のシャンデリアが目に入った。おや、レトロな西洋料理店ではないか。みかげ石の床に踏み入れた。高い背もたれ椅子が整然と客をまっている。狐につままれたようなこの店では、果
たして焼肉を食べさせてくれるのだろうか。
この道で半世紀になろうとする会長の江原政雄さんは、開口一発、「うちは、本当にきれいなんですよ」
造作のことではない。今でこそ飲食業界で声高に叫ばれる「クリンリネス」を強調する。「ほこり一つありません。シャンデリア、ついたての桟一本一本まで掃除してありますから。厨房だって、楊枝一本落ちてませんよ」
徹底したクリンリネス
「焼肉屋は汚い」というイメージを払拭すべく、おしゅうとさんのような会長は、潔癖なまでのクリンリネスを徹底させてきた。
何よりありがたいのは、醤油さし、コチュジャンなどの調味壺もお客さんが帰るや、きれいにふき取り、地ならしをする。前の客が掬った跡の残る調味料ほど、興ざめするものはない。
きれい好きな会長のことだから、「炭火」は頭にないようだ。従って無煙ロースターを基本に、料理づくりを考えている。ガスの火で乾いてしまう肉のことを計算に入れて、味を組み立てる。その一番の表れは、「たれ」である。どのたれも、炊いていない「生だれ」である。
焼肉店である以上、肉に対して独自のこだわりがあるのはどの店でも当たり前のことである。この店が自慢にしているのは、スープ類、それも「カルビスープ」である。
様々な種類の牛を試し、脂、時間、火加減、副材料など、長年の経験から割り出してきた。「せっかくの美味しいスープだから飲み切ってほしい。そのためには、辛いスープには、わずかの甘みが必要なんです。」
お汁粉と塩の関係のようだ。唐辛子の粒子の大きさは勿論、甘味調味料にも、またそれを加えるタイミングにまでこだわっている。
もう、わざわざ足を運んで、混沌とした深味を味わってもらうしかない。
さて、箸やすめだが、もち米、すりおろしたじゃがいもを使った、チヂミやピンデックは見た目にも楽しく、女性や子供に喜ばれる。もちもち感がよい。一切れにきちんと青唐辛子が入るよう、海老はきちんと座っているようにと、細部にまで気を抜かない。
おもしろいことに、「くらげの刺身」が大いに受けているそうだ。くらげそのものに旨味があるわけでなし、歯応えと、たれで食べさせてくれる。焼肉屋では意外に思われるかもしれない。しかし「せんまい」の延長線上にある新しいサイド・ディッシュとして、大山飯店が開発した人気メニューである。
個性をもたせた個店対応
五つある店舗の運営は、センター方式ではない。味、値段、内装など、個店対応している。
現に同じ日、五反田の本店と、麻布店で「いきの良い」せんまいを食べたが、味つけは別
であった。チェーン店にありがちな、画一的な味の冷たさがない。値段も店の雰囲気もがらっと違っていた。
ゴージャスに、あるいは気取らずにと、各店を別 々の実験室に見立てたバラエティーある店作りが、幅広い客層をつかんでいるようだ。
また、各店には、それぞれ名物接客係がいる。そのことに、会長は目を細めていた。その人をお目当てに来る客も少なくないという。マニュアル通
りの接客では、鼻白んでしまう。
「うちでだすのは、家庭料理ではありませんから。料理は、商品です」 金をとっている以上、お客さんの気持ちを考えた工夫が必要である。
肉は一口で食べられるような大きさにしてある。
きっちりと四角いチヂミが、「片手間に、フライパンで焼いた」のではないことを物語っている。
その分、商売人でもある。材料を無駄なく使い切ることも大切なことである。商品効率を常に考えている頭の中には、当然算盤がはまっている。
しかし、何といってもたたきあげの職人である。調理技術の話になると、生き生きしてくる。打ち明けたくなるような、打ち明けたくないような《秘密》をたくさん持っている。ノート百余冊にもなるという調理日誌が、努力と工夫の人を裏づけている。
「でも、旨ければどうだっていいんです」
そうは言いつつも妥協しないこの人の店には、摩訶不思議な魅力が漂っている。
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