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高幡不動の表参道と私鉄の線路に挟まれた地元商店街の奥まった店の前に、人が並んでいた。
朝鮮障子からさす陽が、薬箪笥や河回村の面をあしらったネオ・コリアン調の店内を柔らかく包んでいる。
社長のちょう一男さんがリブロースをすすめてくれた。ロースターを覗くと、石炭のような赤い火が見える。常に一定の火質を保ち、遠赤外線で美味しく焼けるということで溶岩炭を採用したという。焼肉屋では珍しい大根おろしが添えてある。おろしのサッパリ感で、いくらでも肉が食べられる。大根おろしは消化にも良い。子供の頃より、割り卵ではなく大根おろしでスキヤキを食べている私には、うれしい薬味であった。
ビビンバの曼陀羅
昨今は、石焼きビビンバが大流行で、ちょっとしたビアガーデンでも石焼きビビンバが用意されているご時世となった。本家の韓国料理店では、しのぎを削って独自の味の創出に腐心している。
「焼肉彩苑モランボン」オリジナルの石焼きビビンバを味わうことにした。
石の器をのぞくと、碁盤の目に区画されて盛られた具が、見事にカラーコントロールされている。名付けて「お花畑のビビンバ」には、春野に遊ぶような長けさが表現されている。
桝目には、きぬさや、人参、まいたけ、ほうれん草、もやし、ずいき(芋がら)、ズッキーニ(朝鮮かぼちゃ)、なす、卵の白身と黄身、エビ(ブラックタイガー)、明太(干しだらをひいたもの)と韓国の五色の思想を取り入れた十二種類の具が盛られ、海苔がトッピングされている。
野菜に格別のこだわりを持つ韓国人の知恵の結晶である。「旬」をもたせたい、「色の濃い野菜」を使いたいと奥さんの金さんが考案した逸品である。
「混ぜるほどに、深い味」が楽しめるビビンバだが、混ぜる意識の薄い日本人には、美しく盛られたものを崩しまくるのがためらわれる。ビールのコップを片手に「一服の画」に眺め入っていると、お給仕がやってきた。
「よろしかったら、混ぜてさしあげます」
完成されたビビンバのお点前
お給仕が、石鍋から傾いた地球儀のようなご飯を押し上げた。球面 のお焦げを見せることで、美味しさをかきたてる。それから、《お花畑》の具だけをすべて石鍋の底に落とし、好みを聞きながらコチュジャンを加えた。固さの調整に、ワカメのスープを一匙ほど落とすとジュート音がたった。美味しさを耳にも訴える。心憎い演出である。コチュジャンを具に十分行き渡らせてから、地球儀のご飯を戻して、しっかり混ぜ込んだ。混ぜ上がったご飯を、石鍋の球面
に沿って凹面に押さえつけて、さらにお焦げをより多くつくるという算段である。
マイルドな味は、どちらかといえば女性向きである。「味のポイントは、明太の香ばしさです。干たらはミルでひいてあります」
全国焼肉協会主催のコンクールでは、石焼きビビンバ部門で優秀賞を取ったお墨付きである。受賞後、幾度か改良を加え、金さんが《お花畑のビビンバ》と銘打って看板商品に育て上げた。
食べ終えると空になった石鍋へ、ワカメのスープを移し変えてくれた。鍋肌に残るビビンバの旨味が、石鍋の余熱でスープに染み出て、一段と美味しいスープになる。
サービスが差別化
この店の呼び物となっているビビンバのお点前は、店長はじめ、お給仕の人たちから出たアイデアだという。日頃、直にお客様と接している現場ならではの着想である。多人数の場合には、指南役のお給仕に合わせて、各自がビビンバ手前を楽しむということまでできる。
私からは、お花畑のビビンバに、石焼きビビンバ芸術賞をさしあげよう。
訪ねた日は、ちょうど「父の日」であった。家族連れには、バラの小束が渡されていた。「母の日」にはカーネーションと、「わずか二回のささやかなサービスでも、お客様は喜んでくださる」とちょう社長は微笑んだ。
「味はだいたいどこの店でも、一定水準以上のものを出せます。どこでうちの特色を出すのかといえば、サービスしかありません」
さりげない心遣い、細やかな気配り、ちょっとした工夫の積み重ねで、お客様に大きな満足をさしあげようという姿勢に感服した。
「焼肉彩苑モランボン」は、美味しく、そして楽しく味わってもらうためには手間暇をいとわないお店である。
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