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おすすめの焼肉店100軒
焼肉屋むさし
東京都町田市南大谷790-1
tel.042-732-2177

 住宅街の暗闇の中に、ガラス張りの店がぽっかりと浮き出ている。どうやら、店内は満席で賑わっているようだ。店外に置かれた椅子にも、客が座って待っている。約束の夜九時にうかがったが、オーナーの五十嵐勝雄さんは調理場でまだ戦時体制であった。入り口のボードには、順番待ちの客の名が十組ほど書かれていた。

 土曜日の夜は掻き入れ時、私はしばらく店内のようすを眺めることにした。開店してわずか一年半、この繁盛ぶりは何なのだろう。

 スケルトンのような店内には、貼り紙もない。テーブルと埋め込んだロースター、椅子、座布団といたってシンプルである。客席はオープンな空間で、照明も明るい。テーブルの間隔も広く、すべてがすっきりと、かつゆったりとしている。

 一段落したのが、十時近くであった。「何か食べますか?」、食べずに、甘いの辛いのと書けますか。

短期間の韓国料理修業
 「うちは、これといって特色がないんだよね。特色がないのが特色かな」

 急ぎ、キムチの盛り合わせを出してくれた。オイキムチ(きゅうりの射抜き漬け)、カクテキ(大根)、ペチュキムチ(白菜)の三種類である。きゅうりは浅漬けであった。カクテキは日本ではダイスにしたものが多いが、大きなぶつ切りが韓国風でうれしかった。

 かつて韓国を旅したとき、前のさし歯が三本とも抜け落ちて、見るからに旨そうなカクトゥギにかぶりつくことができず、やむなくハサミで切ってもらったことを思い出した。大根は大ぶりにしくはなし。

 キムチは奥さんが中心となって漬けるそうだが、白菜の味付けは本場に近いものがあった。唐辛子は韓国産を使っている。

 二年前までは、ご夫妻とも韓国料理とは全く縁がなかったという。焼肉屋がはやっているので、何となく始めたそうだ。わずかの期間でメニューを修得して、キムチはもとより、コチュジャン、タレなど調味料類もすべて自家製である。

 ところで、「よい牛刺があるから」と、オーナーが勧めてくれた。薬味は、焼肉屋である以上、当然にんにくとしょうがである。まぐろのトロのようにこってりとして、トロより噛みごたえがある。よいものが手には入ったときに出くわした人は、もうけものである。一切れが二切れへとなってしまう。わさびも欲しいところ。

味のベースは特製むさしダレ
 さて、今大ブレークの石焼ビビンバは敢えてさけ、普通のビビンバを食べてみた。

 そもそものビビンバは、石焼ではなかった。本家といわれる韓国・全州で、私が二度ほど食べた全州ビビンバはどれも石器を使ってはいなかった。具は丼の中で繊細におさまっており、ふっくらしたご飯を楽しんだものだ。

 むさしダレは、合い挽きのそぼろを特製のタレで味付けし、ぜんまい、にんじん、大根、豆もやし、ほうれんそうと具はごくごくベーシックである。日本人になじみ深い味が、安心感を呼ぶ。

 甘味の強いタレが、この店の基本となっている。《むさしダレ》は、焼肉のもみダレをはじめ、すべての味付けのベースになっている。

 「甘い味は美味しいけれど、飽きがきて肉はたくさん食べられないと人は言うけど、僕はそれでも美味しいと言われたいので、甘めにしています」

 もうひとつ、ご飯ものでよく売れるのが「ねぎごはん」という。

 焼肉を食べた後の口にさっぱりするということのようだ。草原のように、万能ねぎの小口切りが丼一面 にぎっしりと敷き詰められている。青いねぎの草をかきわけると、白いご飯の中に、やはり《むさしダレ》が染みでていた。これもまた、ビビンバのようにかき混ぜて食べる。タレの味にからんで、おかかの味がくっきりとする。甘いねぎご飯は、食後のデザートも兼ねそう。

 焼肉屋むさしは、サービスに走ることはない。シンプルそのものの店内同様、飾り気がない。商売気があるのかと思えるほど淡々としたオーナーは、「お客さんの数が美味しさのバロメーターだから」と言う。肉の質だけは肝に銘じて落とさず、ひたすらよい肉を出すことだけを心がけていると語った。

 「お客さんは、味をちゃんと知ってるからね」

 値段も決して高くない。店内はゆったりとし、駐車場もたっぷりある。

 「土地がすべて自分のものだから、できるんだね」

 アルコール類は取らず、家庭の夕食がわりに車で来店する近隣のファミリーが多いという。セミ・オープンのキッチンを仕切るオーナーのおっとりとしたこだわりのなさがまた客を寄せているのかもしれない。

(月刊「焼肉文化]vol.87より抜粋)
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