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姫路駅からあの優雅な姫路城の手前を左折し、混雑した国道二号線を車で約二十分走ったところに「ハイミ園」はある。駐車場付きの郊外店だが、ファミレスタイプではなく、小ぶりのレストランタイプの店だ。
車を降りると、アルバイトとおぼしき若い女性が出迎えてくれた。店内に入り、テーブルにつくや、厨房の方からさらに三人の女性が現れた。
取材約束のため電話を取り合った秋山忍さんにさっそく話を聞こうと、「秋山忍さんはいらっしゃいますか」と尋ねると、「私です」と、出迎えてくれたあの若い女性が「マネージャー」と書かれた名刺を差し出す。一瞬どぎまぎしていると、その忍さんが「こちらが下の妹で、隣がパートのおばさんの娘さん、そして私の母です」とテキパキと紹介する。「女性だけの店なんですか?」「そうなんです。あと真ん中に妹がいまして、夕方から出て来るんです」。全国の焼肉店を食べ歩き取材してきたが、女性、それも若い美人ぞろいが切り盛りしているお店は初めてだ。
祖母直伝のキムチと味付け
「果たしてどんな料理が出てくるやら……」。自慢のメニューを出してもらい、まずキムチを味見したが、自家製のものだと聞かされて、そんな思いがいっぺんに吹き飛んでしまった。
韓国産トウガラシを使っているためかなり赤いが、それほど辛くなく味は非常にまろやか。塩辛もしっかりと入っていて本格的なキムチだ。忍さんのおばあさん直伝のもので、それをお母さんが伝授してもらって作っているという。おばあさんは在日の一世。いまも健在で姫路駅前で韓国食材店を営んでいるとのこと。そのおばあさん夫婦が十五年間焼肉店を経営、忍さんのお母さんが引き継いでからすでに十四年になるという。キムチといい、石焼きピビンバなどに使うコチュジャンといい、味がしっかりとしているのもうなずけるというもの。
キムチが美味しければナムルも、コチュジャンが美味しければタレもスープも美味しいのは自明の理であり、味に関してはまず申し分なかった。
では、肝心の肉はどうか。
肉はすべて黒毛和牛を使っているというが、テーブル上に並べられたのはアバラ(カルビだがこちらではアバラという)とロース。「ハイミ園」はこれまで、ホルモンとともに、アバラで売ってきたとあって、値段の割にはやわらかく上カルビ並みの旨味がある。
関東にはない旨さ抜群のロース
驚かされたのはロース(千五百円)だ。ロースはここ三十年ほど一度も食べたことがない。どうにもあのパサパサ感が気に入らず、私には何でこんな高くて美味しくないものが売れるのか不思議な思いしかない。
関東と関西ではロースの部位が異なることは聞いてはいたが、目の前に出されたロースは特上カルビと見まがうほどの霜降りで、食べて初めてこれが関西のロースかと、いままでのロース観が物の見事にひっくり返されてしまった。
東京では最近、リブロースが置かれるようになったが、二千五百円前後と非常に高い。「ハイミ園」のロースはこういったリブロースに引けを取らないどころか、価格的にも肉質、美味しさの点でも断然上位
に位置する。何も大袈裟に言っているのではなく、本当に感心してしまった。
売りだし中の韓国式骨付カルビ
厨房を一人でこなす忍さんのお母さんは、親譲りの味を大切にしているものの新しいメニュー開発の努力も怠らない。七月に全員で韓国へ食べ歩きに行き、帰って来てからさっそく新メニューとして骨付カルビを取り入れた。
「韓国のは甘すぎる」というが、一同感激して、何回かの試行錯誤を経てメニュー化した。肉を切るのは自分でやるという人以外、忍さんらが切ってやるが、食べ方はサンチュに焼けた肉、ニンニク、青トウガラシなどを包む純韓国式だ。
忍さんは、「どうしてもこれを新しいウリにしたい」と、認知されるまでは二人前千五百円のところを、店名にちなんで813円で売り出している。
同店ではいま人気のチヂミ、石焼きピビンバのほかにも、サービスメニューとしてチャンジャ、エゴマの葉漬け、冷や奴などのつまみ類も豊富に揃えている。
3代目誕生も間近
長女の忍さん、外見からは想像もつかないが、群馬大学、それも工学部を卒業、河べりの公園を自分の作品として造るのが夢だったという。しかし、自分でパソコンを駆使して新しいメニューを作成して以来、焼肉店経営に本腰を入れようと、この八月で退社する。二、三年内に第二号店を出したいという忍さん。焼肉店では珍しい三代目経営者の誕生も間近だ。
取材を終えての帰り際、ちょうど次女が帰ってきた。やはり忍さん、三女に負けず劣らずの美人だった。
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