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馬力屋って、もう死語になっていると思いきや、最近はなんと焼肉店の店名として復活している。馬力屋というのは本来の意味は、戦後しばらくの間、トラック代わりに馬に荷物を運搬させていた、つまり今でいうと運送会社に当たるが、馬力という言葉に力強さが感じられ、焼肉店の店名として復活させているのだ。また熊本県は馬刺のクニでもあるから、なるほど、と思わせるネーミングである。
うまさも人気も抜群の特上ロース
焼肉専門店「馬力屋」のある荒尾市は、隣市の大牟田市と同じく戦前から炭鉱に支えられた街だったが、数年前に廃坑になり、主要産業が消えてしまった。
「馬力屋」は焼肉店として開業してから約十年になるが、十年前は道路一つ隔てた向かい側の敷地はすべて三井の炭鉱社宅群だった。それが現在は世界有数の「三井グリーンランド」という大遊園地が誕生して以降、荒尾市では最も活気のある地区となった。
「三井グリーンランド」に向かい合う「馬力屋」は一見、民家風の店だが、近辺では「肉屋さんが経営する焼肉店」として知られており、肉の美味しさは定評がある。マスターの谷川さんの家業は精肉店で、「馬力屋」を開業する以前から肉のセリに連れていかれ、肉の仕入れからイロハを叩き込まれた。今では肉に関する眼は誰にも負けないという。
「黒和牛の脂(霜降り)を見て下さい。真珠色をしているでしょ。ぜんぜん脂の光沢が違うんですよ」と力説するとおり、確かにひと口食べるとジワーとまろやかで、美味しさは抜群である。この鹿児島黒和牛の特上ロースと特上カルビが当店の自慢メニューであるばかりでなく、お客さんの一番の人気商品である。そのわけは美味しいのはもちろんだが、その値段の安さにもある。
他店が真似できない質と低価格
鹿児島黒和牛の特上ロースが千三百円、同じく特上カルビが千円。この価格だと他店ではちょっと真似のできない価格ではないだろうか。マスターの話では「本当はこの値段で出すのが怖いくらい」で、この肉では儲けは出ないとのこと。このメニューが当店では一番高い価格で、他にロース七百五十円、骨付きカルビ五百九十円、塩タン五百円、ハラミ四百九十円。また牛刺しは千円と、豊富なメニューをいちいち紹介するとキリがないが、とにかく価格の安いのには驚かされる。
タレは自家製のしょうゆダレと味噌ダレの二種類を用意していて、しょうゆダレの方があっさりしていて、お客にも人気がある。
牛刺しが出たので、熊本ならではの馬刺も紹介するが、馬レバー刺し(八百円)は牛レバーと比較すると臭みがなく、これはすぐ品切れになって夜遅く来たお客さんには残念ながら提供できないこともある。熊本はウマのクニでもあることから県外では見られない馬肉のメニューも多い。例えば馬タテガミ刺し(六百円)とか馬ユッケ(七百五十円)。
馬ユッケは少しニンニクをまぶしてあり、しつこくなくあっさり感がある。私の場合はビールのアテにちょうどいいが、客によっては温かいご飯の上にかけて、即席ユッケ丼にもするらしい。
九州は韓国と同じく焼酎王国でもある。「馬力屋」は焼酎に特別 にこだわりをもつ店でもある。イモ焼酎はもちろん、米焼酎、粟焼酎といろいろ取り揃えてあるが、数ある中できわめつけは五十年もののイモ焼酎「玉
手箱」(五百五十円)と、米焼酎の三十年ものの「甕の醒(めざめ)」。この二つは他店にはないという。なぜなら「買い占めているから」とか。
夢は七輪の大衆的な店の出店
余談ながら、「馬力屋」では年に一度の社員旅行先を韓国と決めている。最初はソウルに行っていたが、最近ではもっぱら釜山ということだ。もちろん福岡に出れば釜山はすぐ目の前という交通
の便の良さもあるが、釜山の下町の風情が何ともいえないからだという。
通訳に頼んで日本人観光客が絶対に行かない、いわばホルモン焼きをしているような大衆的な店を探すのが楽しみだとか。店の客もなぜこんな店に日本人が来るのだと驚いたような顔をするのが常だという。
近くに「がんばり屋」という炭火焼きの支店を出しているが、谷川さんの将来の夢の一つは、釜山の下町にもあるような、また昔の炭鉱町ならばどこにでもあったようなカンテキ(七輪)を使った、もっと大衆的な焼肉店を出店することだという。
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