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一度に多くの料理は食べられない。味見にと、タン刺とミノ刺を一切れずつ頼んだ。
私のわがままなお願いにも手を抜くことなく、出てきた一皿には風情が漂っている。きゅうりの千切りの上にそっと置かれたサシミ片は、懐石そのものである。
無口な店長、加藤孝司さんは、この道に入って20年である。柔道家のような体格に似合わず、美意識が研ぎ澄まされている。
2種のサシミは何より鮮度がよい。当然、味も食感もよい。当日仕入れの当日売り切りである。タレがまた上品である。
薬味たっぷりの袋カルビ
おすすめのネギ上カルビは、すし揚げのような袋状の肉の中にネギなどの薬味がたっぷりと入っている。網の上でのネギのロスを防ぐために考案したそうだ。
軽く炙って、そのままで味わってみた。脂が落ちて意外とさっぱりしている。
「餃子のような味だとよくいわれます」と奥さんがたたみかけた。
そういえばそんな味もする。知っているような、いや初めてのような不思議な味がする。記憶の糸を手繰っていると、初めての人は一瞬訝るという好評のピビンバが出てきた。石鍋にはレタスと目玉
焼き、ユッケしかのっていないのだ。
「えっ、これが? 美味しいと聞いてきたけど……」一様につぶやきが出るという。
「今、美味しくして差し上げますからね」と不平をかわしながら、客の前で従業員が混ぜることになっているそうだ。掘り返すと、鍋底にキムチやナムル類が潜んでいた。
「玉手箱のようでしょう」と奥さんはにやりとした。炊き込みご飯を意識した、日本的な味付けである。味の決め手となる具を明かしてはくれなかったが、私はそれを見つけ出した。3人分ほどあり、冷めても美味しいので残った場合は、とりわけ外人客にはおむすびにして持ち帰ってもらうそうだ。
外人はホルモン焼きが苦手?
平日はサラリーマン、週末は里帰りした地元の家族連れが多い。また、近くにあるフォーシーズン・ホテルのお墨付きの店でもあり、外人客も少なくないという。英語のメニューも用意してある。
世界一柔らかいという日本の牛肉を、コリアン・バーベキューで味わってみたいということらしい。カルビをはじめ、チゲなどほとんどの韓国料理を味わうそうだが、内臓系の焼き物を頼む外人はまずいないという。
欧米でもトリッパなど内臓の料理は数多くある。またBBQにも日頃親しんでいる欧米人だが、内臓をBBQしようという感覚は持ち合わせていない。ホルモン焼きは韓国人の独壇場といったところか。
ある日、かなりの冷麺好きらしい雅山関がひょっこりやってきたそうだ。
「冷麺をあちこちで食べてるけど、こんなに旨いスープは初めてっす」と感激していたそうだ。以来、来るたびに冷麺のお代わりが必ずあるという。すね骨、拳骨、野菜類から5時間以上かけて引き出した加藤さん「勝負のスープ」である。
白ワインで食べたいバジタン焼
変わったところでは、「バジタン焼」というのがある。タンに特製のバージル・ペーストを塗ったものだ。
バージルの香が何ともさわやかで、食欲をそそる。こつは、バージル・ペーストが塗ってある方から焼く。タンの臭みがとんで、バージルの香りが口の中に広がる。文句なしに気に入った。きりっと冷やした白ワインでいただきたい。
「焼肉屋の定番メニューをきっちり売れない店は、創作ものを出しても売れません」
加藤さんは、哲学する料理人である。
「麻布には麻布の味があり、歌舞伎町の味、上野の味と一口に日本の韓国料理といっても、場所によって味が違いますね」
客の大半が日本人である以上、加藤さんは、日本人の口に合うような味を追求している。味付け、タレ、盛り付け、すべてが清楚である。
接客のプロであるという意識を持ってホールをあずかる奥さんは、客の好みを観察して怠らない。
「たまに年配の方が、サンチュに包んで食べていますが、若い人はほとんどそのような食べ方はしません。食べ方もそうですが、料理にしても時代の流れがありますね」
一世の味、2世の味、3世の味、時代や世代によって、そして地域によっても韓国料理の味は変化してくる。韓国料理もまた生き物であることを、改めて知らされた。
羅生門は、味も見た目も日本人を満足させる、センスのよい店である。
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