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名鉄線の江南駅からタクシーで約10分、住宅街の間を走る通 りに面した2階建てマンションの1階、店構えは「これが焼肉店?」と思わせるほど、質素な造りである。
店内はこざっぱりとした雰囲気で、テーブル席と座敷席合わせて7卓の、よくある家族経営的な店の大きさだ。内装は白壁で統一され、オープン5年6カ月ということもあっていたって明るい。
応対に出た今年60歳になる貝谷建二さんは、厨房を一人で切り盛りするオーナーシェフだ。
「何を食べますか?」
「お電話でいったとおり、まずここのおすすめの肉をお願いします」
ちょっと待って下さい、と言って厨房からもってきたのは和牛生ホルモンと骨付きカルビの2品。料理の味を確かめておこうとキムチもお願いした。
申し分ないキムチの味
このキムチが実に美味。仕事がら全国の焼肉店を食べ歩いているが、これほど美味しいと思ったキムチには正直言って、まだそれほどお目にかかったことがない。
漬けてから何日くらい経つのかと聞くと、「ちょうど10日目」だという。普通
この日数であれば、いくら冷蔵庫に入れて置いても塩辛の臭い、多少の酸味が感じられるのだがそれがない。それでいて美味しく漬かっているのである。白菜の種類や時期によって味は微妙に変わるかもしれないが、辛さ、塩味、甘味、どれをとっても申し分ないものだった。
どうやら美味しさを保つ秘訣は氷温庫にあるようだ。貝谷さんによると、氷温庫に保管しておけば少なくとも20日間は酸味も気にならない程度に、この味を保てるという。
「キムチを知っているお客は『美味しい』と言ってくれますよ」
「東京の名の知れた店のレシピにしたがって作ったと言いますけど、そのお店のキムチは私には甘すぎて美味しいとは思えませんし、これほど漬かってもいませんよ」
こんなやりとりをしているうちにホルモンが食べ頃に焼きあがった。
「ファンもしっかりついている」というこの「和牛生ホルモン」は、「うし家」で人気を博してから他店もメニューとしておくようになった貝谷さん自慢の品だ。
この生ホルモン、今はやりの脂をそぎ落としていない例の甘味たっぷりのホルモンだが、和牛の生とあって肉質はやわらかい。ホルモンの生命であるあのサクサク感もある。私のような世代はたとえ美味しくても、3、4切れで飽きてしまうのだが、若い世代であれば、この脂身の甘さがたまらないのだろう。
安売り店よりも安い価格帯
骨付きカルビは、本場の生カルビを思わせる長さと厚さが特徴で、ヤンニョム(薬念)の味もしっかりとしている。3本2人前で1200円ということだが、お得感とボリューム感にあふれている。
「うし家」の肉の質量と価格は、何もこの骨付きカルビに限らず、すべてがこの調子だ。売れ筋ベスト3の塩タンが600円、カルビが430円、シマ腸のホルモンが350円という安さ。先の生ホルモンは300円、和牛上カルビでも800円にしかならない。
この質量と価格でよく商売が成り立つものだと思うのだが、江南市ではこれが「一般
的な価格だ」そうだ。あの名古屋市と距離的にそれほど変わらないのに半分に近い価格。最近では、今をときめく大手の安売りチェーン店がまわりに出店をつづけているが、そこの価格帯よりもさらに安い。
貝谷さんは、もともと大手の外食産業に勤め、独立に際しては1カ月間みっちりノウハウを学び、「営業経験上、専門店の場合、立地条件はさほど問題にはならない」と、現在の住宅街の立地に出店した。客単価はこの価格帯で2800円、それほど悪くはない。
なのに「繁盛店にならないんですよね」と首をひねる。
「安く、喜んでもらえる商品を提供すること」。これが貝谷さんのモットー。「うし家」はまさにその通
りの店なのだが……。
焼肉店で最も神経を使い、美味しいものを作るのが難しいキムチ。そのキムチの味がしっかりとしており、タレの味も申し分ない。
肉の質と量も決して他店と比べても見劣りしていない。それどころか、かえって他店を上回っている。
貝谷さんのつぶやきを聞いて、私は何とも不思議でならなかった。
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